NVIDIA GPU でパイに命を吹き込む

 
 

2013年1月15日 / By Sharmine Ishak

ポンディシェリ出身のインド人の少年が、ベンガル虎を相棒にして、太平洋上をボートで漂流し、難破してから227日間を生き抜く、サバイバル物語の中でも一、二を争う感動の物語。心の内面に深く焦点を当てているライフ・オブ・パイは、自己を知り、死、人生、生を受け入れるという話です。ヤン・マーテルによって書かれて、2001年に出版されたこの本は、同年のマン・ブッカー賞フィクション部門、南アフリカの2003年度ブーケ賞、2001年から2003年度のAsian/Pacific American Award for Literatureなど、数多くの賞に輝きました。この小説は絶大な人気を博したので、映画化されたのも当然といえるでしょう。

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ライフ・オブ・パイは、ベンガル虎と一緒に救命ボートに乗って、太平洋の真っ只中を漂流したインド人の少年の物語です

そして2003年には、映画を制作するために、ライフ・オブ・パイの映画化の権利を取得しました。このプロジェクトの制作者は、M. Night Shyamalan監督からAlfonso Cuarón監督まで、長年の間に幾度も変わりましたが、ライフ・オブ・パイが一筋縄ではいかない作品であることは明らかでした。この物語は映画化が難しく、原作の文章に込められたテーマを理解できるだけの洞察力を持った人物と、その壮大なストーリー展開が呼び覚ますスケールの大きさをありのままに描き出せる高度な映画制作技術が求められます。

これは凡庸な映画監督の手に余る仕事で、クラウチング・タイガーやヒドゥン・ドラゴン、ブロークバック・マウンテンなどの代表作で知られるアカデミー賞監督アン・リーでなくては為し得ませんでした。アン・リー監督の構想力と才能のおかげで、本から取り出されたライフ・オブ・パイに命が吹き込まれ、インドのポンディチェリーや台湾の墾丁国立公園など世界で最も異国情緒あふれるロケ地で撮影が敢行されました。

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アカデミー賞監督、アン・リー
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しかし、ライフ・オブ・パイの物語では、海のシーンが最も重要な位置を占めており、極めて困難な課題を突き付けました。獰猛な虎と同じボートに乗って、大海原を漂流する少年をどうやって撮影したらよいのでしょうか?それに加えて、立体3Dで映画を撮影するという難題もあり、創作上の課題や技術的な問題が山ほどあることは明らかでした。ありがたいことに、ハリウッドには不可能の文字などありません。ビジュアル・エフェクトの分野では世界的に名を馳せるRhythm & Hues社が、NVIDIAのGPUソリューションを携えて、この難題に取り組んだのです。

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新しいQuadro K5000グラフィック・カードとTesla K20シリーズGPUアクセラレータを動かすNVIDIAの旗艦製品28nm Kepler GK110 GPU

パイの世界を作り上げる

海のシーンの撮影に対する答えは、170万ガロンを超える水を入れることができる世界最大の巨大な自己生成式造波水槽を建造することでしたが、リアリティーを損なわずに、この本に似つかわしい空想的な世界を作るためには、さらに多大な努力が必要です。現代技術のおかげで、Rhythm & Huesは、ロサンゼルス、インド、バンクーバー、台湾、クアラルンプールなど世界中にある同社のオフィスで、600名を超えるデジタルアーティストの手を借りながら、NVIDIA GPUのパワーを活用して、創作のワークフローのスピードを最大限まで引き上げることができました。同社のチームは、何百という視覚効果を映画用に撮影してこの本を映像化し、水や空、トビウオの群れや島のミーアキャットの群れをデジタル処理によって再現しました。この作品でもう一人の主役を務めるベンガル虎のリチャード・パーカーでさえ、ゼロから完璧にレンダリングされました。

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170万ガロンの水を入れることができる世界最大の自己生成式造波水槽がライフ・オブ・パイの撮影のために建造されました。

「巧みな映画撮影技法と優れた視覚効果が見事に融合したこのような素晴らしい映画にNVIDIAの技術が活用されて光栄です。」と、NVIDIAのメディア・エンターテイメント事業部責任者Greg Estesは語ります。「この映画の中の効果は、空から水、息をしている生きた虎まで、全く写真のようにリアルで、コンピューティングの観点からは極めて複雑です。NVIDIAのGPUがこのデジタル芸術の偉業に貢献できたことをうれしく思います。」

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ライフ・オブ・パイのために、R&H社は、独自の視覚効果ツールの数々を特別に開発しましたが、その多くは、特にGPU用に開発されたものです。これらのツールの中で特筆すべき一例がRampageでした。これは3D投影マッピングシステムで、本作で見られる美しい空を描き出す上で特に力を発揮しました。Rampageを使用することによって、アーティストたちは、各シーンの空を特別に制作した高解像度のマット・ペインティングと素早く置き換えることができました。これは、コンピュータで作成された水の照明と反射に影響を与えることに加えて、シーンを埋める上で重要な役割を果たしました。しかしながら、この映画作品のためにフルHDRI (High Dynamic Range Imaging)の空を作成することは、決して容易な作業ではありませんでした。これらの空は、このような規模で行われたものとしては最大級の絵で、平均のファイルサイズは3GB以上でした。

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ライフ・オブ・パイの空を描き出すためにRampageが使用された例

荒天や嵐の空から強い日差しが降り注ぐ空まで、そして鮮やかな青から日没後の薄明りまで、多様な色彩と色調を持った110以上の様々な空がこの映画作品のために準備されました。NVIDIA GPUのおかげで、アーティストたちは、特製の2Dマット・ペインティングを単純な3Dジオメトリ上に投影して、アン・リー監督の構想や本作のVFXスーパーバイザーで、アカデミー賞受賞者であるビル・ウェステンホファー氏の構想と並べながら、リアルタイムで検討することができました。Rampageを用いると、他のアーティストが作業に取り組むための照明参照画像を直ちに作成することもできました。

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ワークステーション用Quadro 4000、5000および6000プロフェッショナル3Dグラフィック・プロセッサ

写真のようにリアルな動物をアニメで描く

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Rampage以外にも、R&H社では、ライフ・オブ・パイの撮影後編集用にその他の特製GPUツールも活用しました。リアルタイムの色補正作業、リタイミングおよびオプティカル・フローを可能にする社内画像合成パッケージIcyや、アニメーションやトラッキング作業で使用されるVoodooなどです。これらのソフトウェアは、NVIDIAのパラレル・コンピューティング・アーキテクチャであるCUDAを用いて記述されています。CUDAは、インターネット上で簡単にアクセスできる資料がたくさんあることから、R&Hのエンジニアたちによって愛好されています。

体重450ポンドのリチャード・パーカーを作成するために、R&H社では、ナルニア王国物語:ライオンと魔女やゴールデン・コンパスといった過去の成功作を振り返ってみることにしました。様々な入手先から集めた何百時間にも相当する参照場面を使用して、R&H社の製作チームは、虎の一般的な身体的特徴と生体力学をしっかりと理解し、写真のようにリアルで複雑な動物の行動と四本の足の動きを創作するために、4匹の虎を研究しました。

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リチャード・パーカー、ベンガル虎の合成写真

Voodooを用いてキーフレーム・アニメーションから創作されたメインCGIの実行後に、キャラクターの動きに基づいた複雑なシミュレーションとして、テクニカル・アニメーションの層を一番上に加え、毛やひげの他に、筋肉のたくましさや体格の均整といった点で動物の皮膚に本物そっくりの精細さを付与するため、風や水、その他の外的な力を及ぼしました。救命着の紐や救命ボートの防水布などの様々な小道具の他、オランウータン、シマウマ、ハイエナ、ミーアキャットなどの他の多数のキャラクターにも、この作業を行いました。CUDAを用いたオプティカルフローの実効は、パフォーマンスを10倍増大させ、アーティストたちは、望みどおりの映像により短時間でたどり着くことができました。

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トビウオの群れは、群れのシミュレーションを可能にしたMassiveという名のソフトウェア・パッケージを用いてレンダリングされました。

トビウオの飛行や島にいるミーアキャットの個体群のような群れをシミュレーションするために、R&Hでは、同社のソフトウェア・パッケージMassiveを活用しました。ミーアキャットの行動は、莫大な量のキーフレーム化されたモーション・ライブラリーから得られた複雑なルールによって統制されました。これにより、アーティストは、一度に最大6万匹の動物の集団をアニメ化することができました。

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NVIDIA Tesla K20ファミリーのGPUアクセラレータ、史上最高の性能と最高の省電力性を持ったアクセラレータ

人手が多いと仕事は楽になる

もちろん、ライフ・オブ・パイは、ビジュアル面で極めて要求水準が高い映画だったので、撮影後の編集で直面した難題の1つは、撮影後の編集に伴う作業を共有することでした。R&H社では、効率的な共同作業を確実に可能にしてくれる最先端技術を使用することによって、この問題を解決しました。このような技術の1つが、アカデミー賞を受賞したQueueという名の分散型レンダー管理システムです。Queueを用いることによって、R&H社のチームは、世界中で様々なリソースを活用することができます。

その他、同スタジオには、EVEのような独自の可視化ソフトウェアもあります。EVEを用いると、アーティストは、上司と共同して、同じ作品にリアルタイムで円滑に取り組むことができます。これにより、アーティストたちは、シーンに取り組んでいるときに、集団で議論することが可能となり、一方、上司は、将来行う必要がある変更を指摘することができます。このため、アーティストは、実施すべき必要な作業を直ちに把握するとともに、即座にフィードバックを出すことができます。

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ミーアキャットの島を作るために映画で使用された画像合成技術の例

共同作業を行う以外にも、R&H社は、とりわけ、コミュニケーション、プロジェクト管理およびデジタル資産の移動が重要な場合に、世界中のオフィスが国境を越えて協力できるようにする基礎的な技術を多数保有しています。このような技術の1つに、VFX業界向けの次世代クラウド・アニメーション・視覚効果センターとして、同スタジオが台湾のChungHwa Telecom と共同で開発したCAVE (Cloud Animation and Visual Effects) があります。CAVEの開設を通じて、R&H社は、コンテンツ開発者が最善のクラウドソリューションにアクセスするためのプラットフォームを作り、コンテンツ制作市場の要望に応えたいと願っています。CGIシーンのレンダリングのために、ライフ・オブ・パイの製作で使用された際に、CAVEのインフラと設備が見事に真価を発揮できたのは興味深いことです。

CGIを次なるレベルに引き上げる

同社のソリューションを動かしているNVIDIA GPUを手にして、Rhythm & Huesは、正しいツールと正しい技術を用いれば、たった3年で目標を達成できることを証明しました。

ライフ・オブ・パイで要求されるワークフローと生産性を達成するためにGPU用にコードを記述したR&H社のチーフ・ソフトウェア・エンジニア、ネイサン・クーニアによれば、「「ライフ・オブ・パイ」の場合のように、これらの要求に応えるために、しばしば、我々は特製のGPUを開発することになります。R&H社にとって、GPU上で作業することは、NVIDIAとともに作業することを意味します。NVIDIAのドライバーの安定性は、本当に競合製品より優れています。」

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「私の部門に求められているのは、映像の品質を落とさずに、より素早く、より高い費用対効果で作業が進められるように、効率をアップさせることです。新しいショーごとに、開発に指針を与えるために、優先順位のリストを作成しています。」と、クーニアは付け加えます。

目下、クーニアは、R&Hで、より新しいGPUツールを続々と作成しており、現在、Cromという名前の大規模な開発に取り組んでいます。Crom はGPUを多用しており、R&Hは、この全く新しいプラットフォーム上で、さらに高度な前照明、照明および画像合成ツールを開発しているところです。現在、R&Hは、現行のCUDAツールセットをCromプラットフォームに統合しており、300: Rise of An Empire、R.I.P.D.およびパーシー・ジャクソン:モンスターの海など、同スタジオが現在進めているプロジェクトのために配備が行われました。

ライフ・オブ・パイ™および® 2012 Twentieth Century Fox Film Corporation。無断複製・転載を禁ずる。
ライフ・オブ・パイの映像は全て、Rhythm & Hues Malaysiaのご厚意による。